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岡山地方裁判所 平成4年(ワ)695号 判決

主文

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

理由

一  請求原因1ないし4の事実は当事者間に争いがなく、同5の事実も認めることができる。

二  そこで、消滅時効及びその中断について検討する。

1  信用保証協会(信用保証協会法による法人)が、商人である債務者の委託に基づいて成立した保証債務を履行して取得する求償債権は、商法五二二条に定める五年の消滅時効にかかる(最高裁昭和四二年一〇月六日第二小法廷判決、民集二一巻八号二〇五一頁)ところ、訴外会社は株式会社である(争いがない)から、商人である(商法五二条一項、五三条、四条一項)。したがつて、信用保証協会である原告が商人である訴外会社の委託による保証債務を履行して取得した本件求償債権は、民法四五九条二項、四四二条二項の規定はあるが、代位弁済の日の翌日から遅延損害金を支払うとの約定があるので、原告が代位弁済をした日の翌日である昭和五六年七月二六日から起算した五年の経過をもつて消滅時効が完成し、また、右求償債務を主債務とする保証債務も同様である(民法四四八条)。

2  原告と訴外会社の間の本件保証委託契約に基づき発生する訴外会社の原告に対する求償債務については、被告らのほかに、訴外長船も、原告に対し、連帯保証をしており、原告は、訴外長船を債務者として、昭和六〇年一二月、右連帯保証契約に基づき、前記代位弁済額と同額の保証債務金及び遅延損害金の支払を求める支払命令の申立てをし、この督促手続は、訴訟手続に移行し、同手続において、昭和六一年七月三〇日、訴外長船が原告の右請求債権をすべて認めたうえ、その一部を分割弁済し、分割金の支払懈怠による期限の利益喪失の特約をし、訴外長船が分割金を完済したときは原告が残金を免除するとの、裁判上の和解が成立した。

3  ところで、「複数の連帯保証人が存する場合であつても、右の保証人が連帯して保証債務を負担する旨特約した場合(いわゆる保証連帯の場合)、または商法五一一条二項に該当する場合でなければ、各保証人間に連帯債務ないしこれに準ずる法律関係は生じない」と解されるが(最高裁昭和四三年一一月一五日第二小法廷判決、民集二二巻一二号二六四九頁)、前述のとおり訴外会社は商人であるから、訴外会社の本件保証委託行為は訴外会社の営業のためにするものと推定され、商行為となるから(商法五〇三条)、商法五一一条二項による、被告らと訴外長船の間には、連帯債務関係が発生する。したがつて、右認定の、訴外長船に対する原告の本件求償債務の履行の請求(支払命令の申立て)は、被告らに対してもその効力を生じ(民法四三四条)、前記消滅時効は中断する。

4  しかし、前認定の事実によれば、原告の申立てにかかる督促手続は、訴訟手続に移行し、同手続において前記内容の裁判上の和解が成立したというのであるから、まず、右裁判上の和解の当事者である原告と訴外長船の間においては、通常は、消滅時効の期間は、右裁判上の和解が成立した日の翌日である昭和六一年七月三一日から再び進行するが(民法一五七条二項)、前認定の裁判上の和解の内容から、各分割金の弁済期又は期限の利益喪失の日の各翌日から一〇年の経過をもつて、各分割金又は全債務の消滅時効が完成することとなる(同法一七四条ノ二)。

このように、債権者である原告と連帯保証人である訴外長船の間では、時効の起算日はもとより、その期間は五年から一〇年に延長されることとなるが、この効果は主債務者である訴外会社には及ばないと解すべきである(大審院昭和二〇年九月一〇日第三民事部判決、民集二四巻八二頁)。

なんとなれば、連帯保証人に生じた事由のうち、右時効期間の延長のような民法四三四条ないし四三九条に定めのない事由は、主債務者にその効力が及ばない(民法四五八条)からである。そして、民法一七四条ノ二が、公の確定によつて当該債権が存在することの確証が生じたこと、せつかく公的確定を経ながら、短期時効期間が延長されなければ、短期間に時効中断の手続を繰り返さなければならないことを理由に新設された経緯があり、右確証が生じるのは、右公的確定があつた当事者間に限られ、それ以外の者の間にはなんらの確証を生じるものではないことは、確定判決においては、その効力の主観的範囲から明らかなことであり、また、右確証の程度は確定判決には及ばないとはいえ、裁判所及び当事者が当該権利の存在について相当程度の確度を認識の上なされる裁判上の和解による確証も、当事者間にしか及ばないからである。また、他の連帯保証人に対する債権について公的確定の手続をとつていない以上、その債権者が、この債権について時効中断を繰り返さなければならないとしても、民法一七四条ノ二新設の右趣旨に反するものとはいえないからである。

このように、原告と訴外長船の間における、短期の時効期間の延長の効果は、主債務者である訴外会社に及ばないから、保証債務の附従性によつても、連帯保証人である被告らにも右時効期間延長の効果は及ばず、前述のように、訴外長船と被告らの間に連帯債務関係があつても、右効果が他の連帯保証人である被告らに及ぶと解すべき明文の規定はない(民法四三四条ないし四三九条及び四四〇条参照)。

そうすると、原告の被告らに対する本件連帯保証債権は、右裁判上の和解が成立した日の翌日である昭和六一年七月三一日から再び進行し、前記五年の経過をもつて消滅時効が完成するものである。

5  担保権実行としての民事執行法による競売は、時効中断事由である差押と同等の効力を有し、差押による時効中断の効力は、原則として、当事者及びその承継人にしか及ばないが(民法一四八条)、物上保証人に対する右競売の開始決定が、利害関係人である債務者への告知方法として、執行裁判所から債務者に送達された場合は、民法一五五条により、右当事者である競売申立人の被担保債権の消滅時効を中断する効果が発生する(最高裁昭和五〇年一一月二一日第二小法廷判決、民集二九巻一〇号一五三七頁)。しかし、この場合も、競売申立人以外の担保権者の被担保債権の消滅時効が中断されるものではない。

また、不動産について登記を経た担保権者は、第三者の申立てにかかる不動産強制競売又は担保権実行の競売手続において、特別の申立てをしなくても配当を受けることができる(民事執行法八七条一項四号、一八八条)。そして、担保権者等に対し債権届の催告がされるのは(同法四九条二項、一八八条)、売却条件を定め、申立債権者に剰余が生じるか否かを調査する資料とするため、担保権者等に義務づけられているものであつて(同法五〇条、一八八条)、配当要求(民事執行規則二七条)とは異なり、右債権届のあつたことは債務者に通知されることとはなつていない。このように、担保権者の債権届は、債務者にではなく、裁判所に対する義務としての権利の申告であり、もとより、右債権届をまつて、当該競売手続において、担保権者と債務者との間の被担保債権を確定する手続が予定されているものではないから、右債権届をもつて、請求、破産手続参加又はこれに準ずる時効中断事由があつたものとはいえず(最高裁平成元年一〇月一三日第二小法廷判決、民集四三巻九号九八五頁)、右債権届けをもつて、時効中断事由である差押に準ずるものということもできない。

また、執行裁判所は、配当期日に債務者を呼び出し(民事執行法八五条二項、一八八条)、出頭した債務者には配当表に異議を述べる機会が与えられるが(同法八九条、一八八条)、右呼出しは、利害関係を有する債務者に対する執行手続上の保障を図る規定であつて、これにより、債権届をした債権者による、請求又は差押があつたとはいい難い。

したがつて、原告が根抵当権を有する主債務者である訴外会社他一名所有の各不動産について、他の担保権者による担保権実行の競売が開始され、原告がこの競売手続において債権届をしたとしても、これにより、民法一四七条の請求又は差押があつたとして、被告らがその利益を受ける前記時効が中断されるものではない。

三  以上のとおりであれば、原告の被告らに対する本件連帯保証債権は、いずれも時効によつて消滅しているものというべきである。

よつて、原告の被告らに対する本訴請求はいずれも理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 岩谷憲一)

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